痛々しくて痛い
伊織さんもその説に力強く同意した。


「もちろん、命に関わる事や、その後の人生を確実に破滅に追い込むようなトラブルに巻き込まれているっていうんだったら話は別だけど。それはその事実に気付いた人が、すぐにでも助言するなり救出するなりしてあげないと」


反論の余地がなく、俺はただ黙って樹さんの主張に耳を傾けていた。


「大切な人の事は、過保護、過干渉にならないように適度な距離を保ちつつ見守る。だけどあまりにも見当違いの方向に突き進んでいるようだったら軌道修正を促す。そしてもしも、心が打ちのめされる程のダメージを受けてしまったとしたら、その時はその人物が立ち上がってまた前を向いて歩いて行けるようになるまで、負担にならないよう配慮しつつそっと寄り添って支える、っていうのが理想的な関わり方かな」


そこで俺はふいに気が付く。


樹さんの考えるその理想形の他者とのコミュニケーションとはズバリ、こういった状態の事を指しているんじゃないのだろうか?


今俺はこの上なくありがたい、上質な心遣いを受けている最中なんじゃないのか?


こんな我が儘で自分勝手で強情な俺なんかには勿体無い程の…。


「とにかく、慧人の気持ちは充分に理解できた」


申し訳ないという気持ちもありつつ、だけどやっぱりどうしようもなく嬉しくて、感動にうち震えている間に、樹さんが話のまとめに入った。
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