痛々しくて痛い
ああ。
こうなるのが嫌だから、早く家を出た(つもりだった)のに…。


震えて掠れて何とも聞き苦しい声になってしまったけれど、さすが皆さん大人で、突っ込みを入れる事なく口々に「おはようございます」と返してくれる。


入口から見て一番奥の席に腰かけ、隣の人と談笑していた麻宮君も私の存在に気付いてくれて、話を中断し、笑顔で挨拶しながら右手を上げてくれた。


戸惑いつつも、それに軽く会釈して応え、ひとまず緊張の儀式が無事クリアできた事に安堵しながら席に着く。


手にしていたコートを背もたれにかけたり鞄から筆記用具を出したりしていると、立て続けにバタバタと数人出勤して来て、その後ろから「皆さんおはようございます!」と元気いっぱいに声を張り上げながら恰幅の良い男性が入室して来た。


「人事課係長の矢部です。えーと、まだ9時前だけど、全員揃ったみたいだから始めちゃいますか」


そう宣言しつつ、彼は各人のネームプレート等の貸与品、様々な書類を配布し、内容の説明をした後にそのうちの数枚をこの場で記入するよう促すと、頃合いを見て回収した。


「じゃ、皆さん荷物をまとめて、終わった方から順に私の後ろに並んでいただけますか?」


言いながら、係長はせかせかと歩き出し、出入口へと向かった。


その言葉に従い皆一斉に机の上の物を手早く鞄に仕舞い込むと、ほぼ同時に立ち上がる。
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