あなたと月を見られたら。
コイツ……
此の期に及んでそれを言うか!
暑い太陽の日差しの中、寒い寒い北極圏のような冷たーーい視線を龍聖に向けてると
「しょうがないでしょ?
俺の体はコンビニとファミレスの飯で作られたんだから。」
「はい??」
龍聖はこんなわけのわかんないことを言いはじめる。
コンビニとファミレス??
意味がわからなくて首をひねると
「俺の母親は飯なんて作る人じゃなかったからさ?学生時代は朝は近くの喫茶店のモーニング食べて、昼は購買のパン買って、夜はコンビニ。たまにファミレスでリッチに夕食。それが日常になっちゃうと、他人が素手で触った食材を食う、って行為に抵抗と嫌悪感が出てくるんだよ。」
うーーん、と伸びをしながらサラリと重いことを言う龍聖。
「一回もお母さんのご飯…食べたことないの??」
恐る恐る尋ねると
「ないね。そこらへんは徹底してる人だったから。そもそも台所に立ってる記憶すらない。」
龍聖はそんな信じられないことを口にする。
男の人にだらしなくて、いい母親とは言い難い龍聖のお母さん。麻生さんが“塔子さん”と呼ぶその人は龍聖をこんな風にした諸悪の根源だと私は思っている。
はぁ……
男の人にだらしないだけじゃなくて、家事もちゃんとしてないなんて……。呆れるを通り越して怒りがこみ上げる。
彼女がちゃんとしていて、龍聖に惜しみない愛を注いでくれていたら龍聖はこんな風に寂しい大人にならなくても済んだのかも知れないのに。もっと自然に、もっと素直に誰かを愛することができたかもしれないのに………彼女はそうしなかった。その罪はとても重い。
私が普通に感じていた“お母さんの手料理を食べる”という幸せを知らないまま、大人になって、私の隣で空を見上げる龍聖。
太陽の光が当たってキラキラと光る薄茶の髪に手を寄せて
「…今日は頑張ったんだね。」
そうつぶやくと龍聖は
「何、突然。」
呆れたようにクスクスと笑う。