あなたと月を見られたら。
龍聖は変わった。
きっとあの頃の龍聖はいないんだ。
いつもどこかピリピリしてて、自分勝手で、女の人を信じられなくて、愛のない付き合いしか出来なかった龍聖は、きっともう過去の生き物なんだろう。
だって全然違うんだもの。
私の隣に寝転んで青空をまぶしそうに見つめる、こんな龍聖は知らなかった。
「ねぇ。」
「なに??」
「膝…借りてもいい??」
「え??」
「鈍感美月には言わなきゃわかんない??膝枕してよ。」
こんな風にイジワル言いながら、不器用に甘える彼は知らない。
茶色い髪が光を帯びて金色に光る。あの頃よりも長くなった髪を一つに結んで私のヒザで満足そうに微笑むカレをたまらなく可愛く感じてしまう、そんな私がいることも…あの頃の私は知らなかった。
「髪、伸びたね。」
そう言って彼の頭をナデナデすると
「もうスーツ着たリーマンじゃないからね。」
龍聖は可笑しそうにクスクス笑う。
「こんな風に穏やかな気持ちで毎日を過ごせる自分がいるなんて、あの時は思いもしなかったな。」
「龍聖……。」
「あの時の俺は金はあったけど人として大切なものは何も持っていなかった。だけどさ?今の俺はコーヒー1杯で人を笑顔に、幸せにすること出来るんだ。それがこんなに誇らしく、こんなにも幸せに思えることだったなら……あの時の自分に早く教えてやりたいよ。今すぐ辞めて楽になれ、って。」
嘘のない、混ざり気のない笑顔で笑うカレを見てると信用してしまいそうになる。
大丈夫なのかも。
好きになっても大丈夫なのかもしれない、って思ってしまう。
ここにいるのは佐伯龍聖だけど、あの頃の佐伯龍聖とは違う別の人。似てるけどあの頃とはまるで違う、愛を持った男の人。私だけを見てくれる…優しい人。
ねぇ、龍聖。
あなたを好きになっていいですか??
あなたに恋をしても、私を傷つけたりしませんか??
そんな風に何度も何度も問いかけるけれど、悪魔はやっぱりどこまでいっても悪魔にしかなり得ない。
嘘は河豚汁(ふぐじる)
どんなに美味しくても、どんなに幸せでも……毒は毒にしかなり得ない。