あなたと月を見られたら。
帰る!と啖呵を切ったくせに、身動きできない私。怒るでも悲しむでもなく、ただ戸惑った瞳で彼を見つめていると
「…帰んないの??」
バカにしたような目で麻生さんが私を見つめる。
「帰ろうと思ったけど…わからなくて…。」
「は??」
「私が間違えてるのかな…って思って…。」
普段の麻生さんはニコニコ優しいいい男だけど、実態は龍聖以上の愛のない男。痛い所を突いて、えぐって、これ以上ないくらい完膚なまでにノックアウトする男、それが麻生優聖。
私もブラック麻生さんに何度もお説教されたことがあるからわかるんだけど…彼はいつだって正論で、正論すぎるからこそ深く傷ついてしまうんだ。口は悪いけど誰も言わない本音をぶつけてくれる人。前に進む勇気とキッカケをくれた人、それが麻生さんだった。
だからこそ、こう思ったんだ。
じゃあ…今回も彼が正しいのかな。正しいのは私じゃなく、彼なのかな。いつも本音をぶつけてくれる彼を知っているからこそ、そんな疑問が頭に湧いた。
答えが欲しくて、いつものように助けて欲しくて彼を見つめてると
「正しいとか正しくないとか、間違ってるとか間違ってない、とか……。そんなくだんないコトに左右されてるアンタが情けない。」
「え??」
「自分の正当性をそこまでして認めて欲しいワケ?俺は正直アンタは卑怯だと思うよ。」
卑怯??
初めて自分にぶつけられた言葉に驚いて目をまん丸にしていると
「自分が悲しい思いをしてるのは相手のせい。ツライ思いをしたのは相手のせい。自分は何も悪くない。全部全部龍聖が悪い。多分アンタ…本気でそう思ってんでしょ?」
麻生さんはバカにしたように私を見上げて、ギロリと睨む。