あなたと月を見られたら。
綺麗なだけの恋愛なんて嘘くさい。
その言葉が私の心の芯をガンっと殴って、思考回路をマヒさせる。
そんな私を知ってか知らずか
「わかった??アンタが恋してるのは女の子のすべての理想を写した王子様、佐伯龍聖なんかじゃない。そこらにいるただのオトコ、佐伯龍聖だろ??それなら…お互いをわかり合う努力も歩み寄る努力も、相手にとって誠実である努力をすることも、全部全部必要なことだと思うけど。」
麻生さんはこんな言葉を口にする。
抜き身の刀を鞘に入れ直して、少しだけ優しい言葉をつぶやいた麻生さんにホッとする。不思議と彼の言葉が耳の奥にスッと入ってきてコクリと小さくうなづくと
「じゃあさ??相手にだけその努力を押し付けるのはやめにしなよ。別に龍聖と別れようとケンカしようと何でもいいけどさ?一方通行に怒りをぶつけて、自分勝手に納得して、自分勝手に関係を終わらせる。それってすごく独りよがりで、相手に対して物凄く失礼なことしてるとは思わない??」
カレはコトの深層に触れ始める。
「逃げずにぶつかって来なよ。」
「……でも……。」
「ま、それでダメならしょーがないじゃん。言い合いになっても罵り合いになっても、本音をぶつけることは相手にとって誠実であることだと思うよ?何も言わずに着信拒否するより、ずっとずっと…ね?」
麻生さんはそう言ってニッコリと微笑む。その言葉に目が覚めてきた、私。
私は龍聖に嘘つかれたコトに傷ついて、隣にいたあの綺麗な女の人に勝手に劣等感を抱いて、龍聖と距離を取ったけど…それってすごく自分勝手なコトだったのかもしれない。
だって彼の言い分も何もかも無視して、自分を守るためだけにそうしたんだもん。
もしかしたら…
何か理由があったのかもしれない。
スーツを着てた理由も、ホテルにいた理由も、あの女の人との関係も…全部全部憶測だけで実際に龍聖から聞いたわけじゃない。もしかしたら納得できる理由があったのかもしれない。
ーーハァ……
私バカかも……
そう思いなおして元いた席に足を進めて麻生さんの向かいの椅子に腰を下ろすと
「アレ?帰んないの?」
相変わらず麻生さんは皮肉たっぷりな目をして、こんな意地悪を言い始める。