あなたと月を見られたら。


「だ、だって!龍聖も言わないから!!」


龍聖の勤め先はコーヒーショップ。だけど英語ペラペラで外国人の上司がいるってことは…六本木とか赤坂とか外人さんの多い地区のお店で働いてるんだろうな〜。


バカで単純な私は、勝手にそう信じて疑わなかった。



…というか……
正直、職業に興味がないと言いますか、お金に興味がないと言いますか……早い話が龍聖の職業なんて、なんでも良かったわけですよ。人に迷惑かける仕事以外なら本当になんでも良かったの。



それよりも大事なのは龍聖の人となり。



だから…付き合い始めてから、毎回予約されるホテルディナーとお泊りに気が引けて

「あ、あの、龍聖。」

「ん??」

「私、別に毎回ホテルディナーじゃなくてもいいんだけど。」

「へっ??」

「私、ラーメンもお好み焼きも大好きだし、ホルモンも大好きなの。だから…あんまり気を使わなくていいよ??」


そう言った瞬間。龍聖は目をまん丸にして驚いた後、大声をあげて笑いだした。




私にしてみたらコーヒーショップの店員のお給料で、ディナーと宿泊代をデートの度に出してたら大変だろうな、って思っての申し出だったのに


「大丈夫だよ。俺、コーヒーショップの店員じゃなくて外資系金融で仕事してるから。」

「え??」

「ごめんね。ああいう場所では本当の職業を言わないことにしてるんだよ、俺たちは。」


龍聖はサラリとこんな言葉を吐き出した。


「…え??」


当時の私は無知すぎた。
外資系企業に勤めてる、っていう言葉の意味も、外資系金融のサラリーマンの年収が、軽く1千万を超える人がいることすらも知らなくて


「ふーーーーん。
よくわかんないけど……でもあんまり無理しないでね?龍聖が頑張ったお金を簡単に無駄遣いするのって、なんか気がひけちゃうからさ??」



そんな偉そうな口を叩いてしまったのだった。


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