あなたと月を見られたら。
バカだなぁ、私。
今なら龍聖の言った言葉の意味がよくわかるのに、あの時の私は全く意味がわかってなかった。
ただ、龍聖の言った企業の名前は、世間に疎い私も聞いたことのある企業だったから
『一流企業に勤めててすごいな』
これくらいしか思わなかった。出版会社に勤めているというのに…自分の無知が恥ずかしい。
なんで職業を偽っていたのか、なんて、今になるとなんとなく理由もわかるのに、あの時の自分は『不思議なことをする人だな』くらいにしか思わなかった。
ハァとため息を吐いてアイスティーに口をつけると
「まぁ…そういうとこがツボだったのかなぁ…」
感慨深そうに麻生さんが私を見つめる。
「はい??」
「ほら。アイツの周りにいたオンナって、お金のかかりそうなことが大好きな綺麗なだけのオンナが多かったしさぁ?そういう堅実なこと言うオンナっていなかったし……なんか、ちょっと納得。」
龍聖の過去のオンナ…ねぇ。
確かに私は龍聖のオンナの好みから言えば綺麗に外れてるラインにいるオンナだと思う。
オシャレも好きだし美容にも興味はあるけど、どう高く見積もっても容姿は十人並み。男性経験も少なければ、恋愛経験だって片手で足りるくらいしかない。
どこにでもいる、至って普通のOL。それがワタシ、牧村美月。
龍聖みたいな元エリートが何を考えて、何を思って興味を持ってくれたのかは謎だけど……私は私。今更取り繕ったって仕方がないし、親からもらったこの容姿に文句つけるわけにもいかない。
このままの私で勝負するしかないだもんなぁ…。
「ま、流れに身を任せて、ここはこの状況を楽しみます。根本から愛のなかったアイツが本当に改心してるのかなんて未だに信じられないし、何考えてるのかなんてもっとわかんないけど…。」
残り少なくなったアイスティーのストローをグラスの中でクルクルしてると
「改心…ねぇ。
まぁ、そこら変はよくわかんないけど……あの事件以来、考え方が変わったのは確かだね。」
麻生さんは気になる一言をつぶやいた。