砂漠の賢者 The Best BondS-3
      *


事の始まりは数時間前に遡る。

二週間にも及ぶ船旅は彼女達を大変疲れさせた。


まあ、その間に嵐と遭遇したり、エナを狙う夜這いがあったり、ジストを狙う女性達の諍いがあったり、ゼルと腕を競う男達のバトルがあったりと、退屈知らずな日々であったものの、同じ景色しか見せない船旅は彼等にある種の退屈と疲弊をもたらせた。


その船旅から開放された直後。


彼らはまず、船内に積んでいた宝石等、戦利品(盗品ともいう)の数々をゼルの故郷であるトロルに輸送することにした。


報酬と称し獲得した(略奪ともいう)船は港に置いておかねばならないが、積荷までそのままにしておくのは余りに危険と判断したからだ。


トロルにはゼルの妹と、元海賊のシャードが居る。


彼らに任せておけば安心だと言い出したのはジストで、「預かってて」とたった一言書いたエナのペンを奪い、「元気か? オレは元気だ」と、これまたたった一言ゼルが書き足した手紙を荷物に添えた。


封蝋の印璽の代わりを果たしたのは、ラファエルの肉球である。


まさか溶かした蝋の上に可愛らしい足を乗せるわけにもいかず、糊付けした封筒に墨を塗った肉球を押し当てたのであるが。


「うん、綺麗に押せた! ラフはエラいねー」


梱包した荷物の上に居るラファエルの足を拭こうとエナが抱えあげた時、どん、と衝撃が肩を襲った。


とはいえ、それほど痛いわけでもなく、多少よろめいた程度だ。

人にぶつかったのだと知り、エナは反射的に謝罪の言葉を口にした……のであるが。


「ぅわっ……ゴメン…………って謝ってんだからてめぇも謝れーー!!」


ち、と舌打ちをしてそのまま去ろうとした男の腕を掴み、エナが食って掛かった。

ゼルとジストは「あちゃー」というような顔をした。


其れも其の筈。


相手は男で、しかもお世辞にも人相が良いとは言い難い。





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