続・祈りのいらない世界で
「ま、いっか。イノリが寝癖なのは本当のことだし」


「よくないっ!お前のせいだからな!!」


「いーじゃん。可愛いじゃない」


「どこがだよ!…フウ、美月はチビだ。言えるよな?美月はチビ。ほら」



イノリはフウをキヨから奪い取ると、目線を合わせ無謀な試みを働かせた。


キヨはそんなイノリを見て笑う。




「私達の子どもにはちゃんとした言葉教えないとね。…今日からイノリのことパパって呼ぼうかな?」



キヨがそう言うとイノリは真っ赤になって目を見開いた。




「ねっ、いいでしょ?イノリは私のことママって呼ぶんだよ」

「呼ぶか!そんなこっぱずかしい事ぜってぇ言わねぇからなっ!!」

「もー照れ屋さんなんだから。パパは」

「やめれ!!」



なんだかんだ言って子どもが生まれる事と、家庭を持てる事を一番心待ちにしているのはイノリなのかもしれない。




「……ねぐしぇ」

「フウ…。俺はイノリだ」



名前を呼んで貰えずヘコむイノリを見て、キヨはそう思った。




「ねっねっ、私ねフウの為にピアノ練習したの。聞いてくれる?」

「ピアノ?お前、カエルの合唱くらいしか弾けねぇだろ」

「失礼ね!森のくまさんやチューリップだって弾けるわよ!!」



あまり反論になっていないキヨ。


キヨはリビングの隅に置いている電子ピアノに電源を入れると、鍵盤を弾き始めた。



自信満々に弾いているキヨだが、所々間違っている。
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