続・祈りのいらない世界で
学校に着き、教室へ向かった4人は席につくと授業の支度を始める。




「ねぇイノリ、宿題やってきた?……」



キヨは隣の席に話し掛けると、イノリがいない事に気付く。


大きなイノリの体が隣にない席は教室が嫌という程見渡せる。




キヨはイノリの席から目を離すと、キヨの机にイノリが落書きした『チビ』と『泣き虫』という文字と、キヨがイノリの机に落書きした『寝癖』と『つり目』という文字を見つめた。




「………今日は俺がキヨの隣に座ろうかな」



カゼは教科書とノートを持ってイノリの席に座った。




「キヨ。今日俺、部活行かないから早く帰ろ。そしたらイノリに早く会えるだろ?」


「休み時間になったら屋上に行きましょうか。みんなでイノリに電話しよ?ねっ、キヨ」



キヨの心情を察し、優しく微笑む3人を見てキヨは涙ぐみながら頷いた。




「………この際イノリが試合してる高校に行く?」



カゼの言葉に3人は何を言っているんだといった表情で首を横に振った。




普段と変わらない授業風景。

カンナがいてケンがいて、カゼがいて…。



1人じゃないのだから、何にも寂しくない。悲しくもない。



極普通の1日なのにどうして…




ただイノリ1人がいないだけで、私はこんなに泣きそうになってるんだろう。





授業が身に入らないキヨは窓の外を眺めていた。




「………キヨ。見て、イノリがいたよ」



授業中、隣の席に座っているカゼに肩をつつかれたキヨがカゼを見ると、カゼはノートにイノリの似顔絵を描いていた。




ぐるぐる巻きの髪に、斜めに線を引かれただけの目。


お世辞にも似ているとは言えない。
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