続・祈りのいらない世界で
「カゼは字は綺麗なのに絵はヘタクソなんだね。イノリはこうやって描くんだよ」



キヨが自分のノートにイノリの似顔絵を描くと、カゼはパチパチと小さく拍手をした。




「………似てる。上手いね、キヨ。じゃあ今度は俺描いて」


「カゼは5人の中で一番難しいんだよね。私なんか丸と点描けばいいし、イノリとケンはパパっと描けちゃうし、カンナは目をパッチリにさせれば何となく似るけど…カゼは王子様みたいだから難しい。…白馬に乗せればいいのかな」


「………白馬?俺は馬肉より鶏肉が好きだよ」


「え?何の話!?」



キヨとカゼは午前の授業中、ずっと似顔絵を描いて遊んでいた。




「やっと午前の授業が終わったね。今日は1日が長いなぁ…」

「いつもはキヨ、イノリと言い合って終わるもんね、授業」

「………でも少しは気紛れた?」

「うん。ありがとう、カゼ。…それにイノリなんかいなくても私は大丈夫だもん」



キヨはそう言うと、学食に行く為財布を鞄から取り出した。




「…キヨ。私達の前では無理しなくていいのよ?キヨに無理に笑って欲しくないわ」


「何言ってんのカンナ。私は全然平気だよ?たかが1日イノリに会わないくらい。…それよりお腹空いた。早く食堂いこ」



キヨは楽しそうに鼻歌を唄いながら教室から出て行った。




「キヨはバカなんだから…」



3人は心配そうな表情を浮かべると、キヨの後を追った。



食堂に着き、いつものように食券を買い、カウンターに並ぶ4人。




「イノリ何買った?オムライスなら私にケチャップ掛けさせて♪……って…」



キヨは見晴らしのいい隣を見た後、カンナ達に視線を移すと寂しそうに微笑んだ。




「…私、トイレ行ってくるね。みんな先に食べてて」



キヨは食堂から出ると1人、屋上へと向かった。




突き抜ける青に浮かぶ白い雲。

雲は風に吹かれてゆっくりと空を走っている。




「イノリ、頑張ってるかな?バスケしてるイノリ、カッコいいんだよね。…そういえば初めてイノリのバスケの試合見に行った時、喧嘩したなぁ…」
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