続・祈りのいらない世界で
「なんでカゼの部屋にいんだよ。電気もつけねぇで」



イノリは部屋の電気をつけると、キヨが眠っている事に気付いた。




「寝てんのかよ。変な体勢で寝やがって。…美月起きろ、俺が帰ってきたぞ」



イノリに揺さぶられたキヨは目を覚ます。




「…おかえりイノリ。ご飯にする?お風呂にする?それとも私?」

「は?お前、頭でも打ったか?」

「一度言ってみたかったの!…それよりイノリに報告があるんだ」

「報告?」

「うん。私ね、妊娠したかもしれない」



キヨの言葉にイノリは目を丸くする。

キヨは穏やかに微笑んでいた。




「吐き気がしたから検査薬で調べたら陽性だったの。明日、病院行ってみるね」


「…もう大丈夫なのか?お前はカゼとの子どもの事で色々思い詰めてたけど…」


「うん、大丈夫。今日カゼが教えてくれたから」



キヨの言っている意味がわからないイノリが首を傾げると、キヨはカゼの日記をイノリに差し出した。


イノリは日記を読むと涙を流す。





『イノリは尊敬する。
俺は好きでもない子と普通にヤるし、そうでもしなきゃ欲が満たされない。

でもイノリはキヨを心底愛してるから他の子とは絶対しない。

そんなイノリが好きだ。キヨも好きだ。だから2人に幸せになって欲しい。



これから訪れる俺の幸せを2人に全部あげてもいいから、すれ違ってばかりのイノリとキヨを幸せにしてよ神様。


神様がしてくれないなら俺が死んで神になる。


2人の幸せは俺やカンナ、ケンの幸せだからね』




「…っ。カゼの奴、口下手なクセに文才はあるんだな。でも…本当に死んでどうすんだよっ…」



キヨは涙を流すイノリを抱きしめた。





カゼ。


カゼが生きていたらカゼに訪れるはずだった幸せを

全部私とイノリにくれているから私達はこんなに幸せなの?



でもね


こんな沢山の幸せなんかいらないからカゼに生きていて欲しかったよ…



カゼがいてくれれば、それだけで幸せになれてたよ?



あなたは人の心を見抜き、理解してくれる人だから。
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