欲しがりなくちびる
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「お帰りなさい、店長。今日って直帰するんじゃなかったんですか?」

その日、午後から本社で行われた店長会議に出席した後そのまま直帰するとスタッフには伝えてあった。閉店15分前の店内に客はおらず、遅番の実加が店仕舞いの支度を始めていた。

「そのつもりだったんだけど、まだ時間も早いしね。ちょっと顔でも出そうと思って」

「店長、相変わらず仕事人間ですね。彼氏と別れたからってまたそんなに仕事頑張ると、次の男見つけるの大変ですよ」

「そうかもね」

実加の口調が呆れているのか心配しているのかどっちつかずだったため、朔は敢えて抑揚をつけずに相槌を打つ。

「あれ? あんまり男に困ってる感じじゃないですね」

けれどもそこはやはり実加だからピンときたらしい。

「そう? まぁ、仕事楽しいしね。そういう実加ちゃんはどうなの? 新しい彼氏できたんでしょ」

レジ脇に貼られている中計レシートを確認すると、朔が留守の間にコートが4着売れていた。

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