欲しがりなくちびる
「ずっと、忘れられない人がいるそうですよ、朔さん。」
その言葉で締め括られていたメールに何故か目頭が熱くなったのは、気のせいなんかじゃない。
浩輔が今も変わらず愛してくれていることに気付いていたはずなのに、どうして彼を信じることができなかったのだろう。
二人の関係を表す言葉なんてなくたって、どんなときでも浩輔を近くに感じていたというのに、どうして拘ってしまったのだろう。いつだって浩輔は傍にいてくれたのに。
ふいに、タブレットが昨日とは違う位置に置かれていることに気付く。
昨晩の浩輔の行動は、もしかするとあれが原因なのだとしたら彼は何て単純なのだろう。物事を複雑に考えて訳が分からなくなって余計にややこしく考えていたのは、寧ろ自分の方だったのかもしれない。
そう思ったら、顔がにやけてきて困ってしまう。
しゃんと真顔を作ってもどうしてもすぐにふやけてしまうから、薄く肉の付いた頬を抓った。
もう、勘違いでも構わない。こんなにも心が軽くてふわふわしているのは、本当に久し振りだから。
そういえば、冷蔵庫の中身が空っぽだったことを思い出す。きっと浩輔が帰りに買い出ししてくるだろうから早めにメールをしておこう。
今夜の夕食は何にしようかなと考えながら、気付けば鼻歌を歌っていた。