欲しがりなくちびる
話す度に零れる整然と並んだ白い歯。
意志の強そうな、引き締まった大きめの唇。
骨ばってごつごつした大きな手。
涼やかできりっとした印象を持つ切れ長の双眸。
瞳の奥にはいつも、計り知れない光りを隠し持っている。

この感覚が何かを朔は知っている。

甘やかでいながら強引に引き寄せられるこの感覚を、浩輔を目の前にしてどうしてなのか久しぶりに感じていた。

「朔?」

自分は今どんな顔をしているのだろう。朔はふとそう思った。

彼女は、仕事柄自分が今どんな顔をしているかを常に意識するようにしている。親しみやすいラフな顔、不安にさせない笑顔、心からの言葉だと伝えるための真摯な顔。

そのどれでもなくて、きっと、ひたむきなほど普通の顔をしているのかもしれない。

朔は様々な表情の中でも驚いたときのそれが最も乏しい。そのせいで周囲には何事にも動じない印象を与えるらしく、昔から童顔ながらも実年齢より年上に見られることもあった。

「それ飲んだら出るか」

浩輔は残っていたジョッキを一気に空けて言う。

彼は、店を後にすると途中で立ち寄ったコンビニでアルコールとつまみを大量に買い込んだ。どうやら朝まで飲み明かすつもりでいるらしい。

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