欲しがりなくちびる
こうして二人は、恋を知る前にセックスを経験した。

これまで足りなかったものが何なのか、朔には分かったような気がした。大人達が必至に隠してきたものがセックスだとすれば、大人はなんて狡賢いのだろうと。

両親の離婚で転校することになった浩輔を失うと、幸せだった日々を取り戻すかのようにイケメン教師として女子生徒から人気があった数学教師に自ら迫った。朔に告白してくる同級生もいたけれど、見るからに童貞や経験の浅そうな彼らに自分を任せることはしたくなかった。大人の男が相手なら妊娠の心配もないだろうし、きっと浩輔以上の温もりを与えてくれるだろうと思ったから。

始めは軽くあしらうだけだったその教師も、朔が「好き」と言葉にした瞬間、一切の理性を手放してしまったかの様に躊躇うことなく彼女へと手を伸ばした。まだ成長途中の小振りな朔の胸に顔を埋めるときの彼は、同じ年頃の男子みたいにぎこちなく震えて、その様子に母性のようなものが働いた彼女の小さな胸はその度にきゅん疼いた。今の朔と同じくらいの歳だった数学教師がスリルを楽しむようにして放課後の準備室で求めてくる姿に罪悪感と愉悦感を覚えて堪らなく興奮したのを今でも覚えている。

分別を弁えた大人の朔がもしもあの頃にタイムスリップする事ができたのなら、今の自分にはとてもできない芸当だと思う。心も身体も全てを満たすことができる唯一のツールがセックスだとすれば、この世にはなんて素晴らしいものがあるのだろうと思っていた当時の自分は、恐ろしい程ませた子供だった。

< 36 / 172 >

この作品をシェア

pagetop