欲しがりなくちびる
けれども、それは恋じゃなかった。

卒業を待って結婚しようと血迷った彼に迫られると、急に熱が冷めたように煙たくなった。まだ子供の自分にそんなことを言ってくる大人が信じられなくて気持ち悪かった。

だから朔は、親に関係がバレて教育委員会に訴えようとしていると嘘を吐いて突き放した。

振り返れば、最初から最後まであまりに身勝手で、彼は単に巻き込まれただけの被害者の様にも思えたが、当時の朔にそこまでの概念は当然なかった。傍が思うよりも大人で、そして子供だった中学時代だからこそできた残酷さなのだろう。ふとあの頃を思い出す度、彼にはどこかで幸せに過ごしていてほしいと思う。

いなくなった浩輔の代わりに探し求めているものは何なのか、それを朔に教えてくれたのが、決して自分のものにはならなかった高校の先輩だった。

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