欲しがりなくちびる
2
朔は物音で目を覚ました。隣りに浩輔の姿はなく、彼はリビングで出掛ける支度をしているところだった。

「おはよ、ねぼすけ。俺、今日は絵画教室の日だけど夕方には帰ってくるから。さっき適当に買い物してきたから、あとは好きにしろよ」

浩輔がパジャマ姿のまま寝ぼけ眼でソファに凭れている朔に言うと、慌てる様子もなく部屋を後にした。昔から時間に正確なのは変わってない。

彼女は暫くぼんやりした後、ぺたぺたとフローリングを裸足で歩きキッチンへ向かう。冷蔵庫の扉を開くと、好きにしろと言った割にはラップが掛けられたチャーハンが用意してあり、電子レンジで温めている間に顔を洗うことにした。

「あー、頭痛い」

昨日は久しぶりに飲み過ぎた。朔はガンガンと痛みに鳴り響くこめかみを手のひらで覆う。

浩輔と何を話したか断片的にしか覚えていなかった。特に部屋に帰ってきてからは、すっぽり記憶が抜け落ちている。にも関わらず、浩輔を意識してしまった自分の姿はしっかり覚えているのだから性質が悪い。

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