欲しがりなくちびる
「何か飲む?」

気を遣う暢に大丈夫だと返事をすると、彼は冷蔵庫から取り出したミネラルウォーターで渇きを潤す。

「あの、これ……」

口元を拭った暢にジュエリーケースごと手渡す。彼は受け取った手のひらに視線を落すと、静かに口を開いた。

「――俺達、もうやり直せないのか……?」

呟くようなその声は、聞き取るのがやっとなほどか細かった。どんな時でも堂々としている暢からは想像もできないほど、俯いた彼の顔には陰りが見える。そんな顔を見せられても気持ちは揺らがないのだと、改めて実感する。

「ごめんなさい……」

朔の言葉にゆっくりと顔を上げた暢は、首を横に振る。 

「いや。謝らなくてはいけないのは俺のほうだから。全部俺が悪いんだ」

「でも、私に気に入らないところがあったから、暢は……」

真意を問うように見つめれば、暢はふと表情を和らげた。

「朔はいい女だよ。だから、ずっと一緒にやっていきたいと思ってた」

真摯な眼差しをして今もそう言ってくれる暢に、朔は自分も正直でありたいと思う。

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