欲しがりなくちびる
暢の帰宅を待っている間に、置き忘れていた私物を整理する。大抵の物は、彼が事前にショッパーに入れて纏めてくれていた。

窓際のサイドボードには、笑顔で写る二人の写真が飾られたままだ。彼はこの二ヶ月の間、この写真と毎日過ごしてきたのだろうか。幸せだと信じて疑わなかった頃の二人は、無邪気に微笑んでいる。

たぶん、今でもまだ暢のことは好きなのだと思う。

けれども朔は、自分の気持ちを知ってしまった。ジュエリーケースに収められたダイヤモンドは、常に変わらない輝きを放っているというのに。

玄関の鍵を開ける音が聞こえてきて、意識するより早く胸がざわつき出す。廊下に出迎えに行くと、少し痩せた感のある暢は力なく微笑んでみせた。

「ごめん。待った?」

久し振りに会う暢に対して懐かしいというよりは、まるで初対面の人に会ったような不思議な感覚を覚えた。それでも確かに彼を知っているという、デジャヴというよりは違和感に似ていた。

< 77 / 172 >

この作品をシェア

pagetop