【超短編 12】なんとなく白い箱
なんとなく白い箱
 その忘れ物を見つけたのは、閉店5分前だった。忘年会シーズンでついさっきまで殆ど満席だったし、回転率も良かったからこの忘れ物がどういったお客さんの忘れ物だか全く検討もつかなかった。
とりあえず店長に報告すると
「なにそれ。捨てちゃってもいいんじゃないのか?」
と言われた。
店長にそう言われてしまうのも仕様がない。僕が忘れ物だと思っているものはただの小さい白くて四角い箱なのだ。箱とは言っても、中身を入れるようなところも開けるところもない。
 それはもう箱じゃないかもしれない。
 四角いもの。
 皿に乗せて遠くから見れば冷奴に見えなくもない。でも、豆腐のようにもろい素材ではなく逆にこの6階建てのビルの屋上から落としても壊れないくらい頑丈そうな素材だった。
 工業大学に通うアルバイトの野木上君に見せたが、それが何で出来ているのかさっぱりわからないと言われた。手のひらにちょうど収まるくらいのソレの重さは、ずっしりとも軽いとも言えずただなんとなく持ちやすい重さだった。
僕はその箱(ともう呼んでしまおう)を妙に気に入ってしまい、家に持ち帰った。
職場から電車で15分。そこから歩いて20分のところにある僕のアパートに帰ってくると、コタツの上に散らかった雑誌やサワーの空き缶などを全部床に取っ払い、箱だけを真ん中に乗せた。
 
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