【流れ修正しつつ更新】流れる華は雪のごとく
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すっと音も立てずに男が現れた。

でも、私は彼を知っている。


『久方ぶりであるな、扇莉』


『そうですわね、とでも言って欲しいのか?大体、ゆくゆくは妻になる女の部屋に無断で入って来る男に、しおらしい態度などする気にもなれぬな』


嘘です。本当は来てくださって嬉しい。


『これは手厳しいな。扇莉とは旧知の仲だから仕方ないのかな』


不思議な色の髪が煌めく。

本当に綺麗だな、と会うたびに思うのだ。


『さぁ。ところで霧氷、今日はいつにも増して機嫌が良さそうだが』


『そう見えるか?やはりそうか?今日はあの夏焼家の姫君にお会いしてきたのだ』


どくん、と心臓が気味の悪い震え方をした。

四鬼の結びつきが強いとは言えど、まだ父上が頭領の時代。

娘、息子同士で会うことは少ないのだけれど──花姫は、郡を抜いて名が知られている。

品行方正、容姿端麗、頭脳明晰。

三拍子で揃ってしまえば花姫に勝る者は存在するのだろうか。

そんな評判を持つ姫君。

前々から霧氷様が興味を抱いていることは知っていた。


私だっていずれ仲間となり、いざというときは共に戦う相手。

お友達になりたいとは思っていた。


『…それで、花姫様はどのようなお方だったのだ』


『それが、何とも素晴らしいお方だよ。名の通り、花のように麗しく、そして何よりもお優しい』


慈しむように、一つ一つ思い出すように語る霧氷様。

こちらの気も知らないで。

ねえ貴方は私の婚約者でしょう。


どうしてそんな風に花姫様のことを語るの。


どうして──。

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