【流れ修正しつつ更新】流れる華は雪のごとく
安心も束の間。
すぐに涙を拭き、ふっと真面目な─心配そうな表情を浮かべて露李が立ち上がる。
「有明様」
名前を呼ばれ、項垂れていた彼女が顔を上げた。
髪は元の黒色に戻り、目も前と変わらぬ色になっている。
四色の光で造られた枷で、手は後ろ手に組まされていた。
姿は美喜と瓜二つ。それでも全く違う人。
露李を慮ったのだろう、有明に傷はついていなかった。
だとすれば、守護者たちが奪ったのは彼女の何だったのだろう。
少し逡巡してから、有明が口を開いた。
唇が小刻みに震えている。
「…露李姫」
以前は落ち着き払い、同い年の外見に反していた声が妙に幼く聞こえる。
今、自分を見上げている少女はあまりにも頼りなく、あまりにも悲しげだった。
以前から瞳にちらついていた強さは見受けられない。
赤い着物がシュルリと衣擦れの音を立てた。
「霧氷様は、幸せだったのだろうか」
言葉を失った。
彼女は願うように、祈るようにこちらを見つめている。
そうであってほしいと。
「…私は、花姫として霧氷さんにお会いしたことがあります」
そう言いながら有明の手首に触れる。
パチンと枷が外れ、露李の掌に光が吸収された。
「…とても優しい、笑顔をしていらっしゃいました。それがどんな風になってあの形になったのかは分かりませんが─」
『こちらへ、花姫』
そう呼びかけた霧氷の声は柔らかく優しく、人懐っこい印象があった。
そして、花姫も。
「それに花姫が霧氷さんに矢を放つとき…とても、痛かったんです」
信じられないという思い、甘い恋心、身を切られるほどの絶望。
「泣いていました。手が震えて、いっそ外れてしまえば良いと…でも、花霞が的を外す訳がない。でも射つ瞬間まで、願ってたんです。嘘だって、言ってくれることを」
「霧氷様は…愛、されていたのか…?」
あんな感情、知らなかった。
今まで味わったことの無い痛み、今まで感じたことの無い甘い気持ち。
だからきっとそうなんだと思う。
「『愛していました』」
有明が目を大きく見開き、そして涙がこぼれ落ちた。
恨みでも憎しみでもない透明な涙だった。