0の可能性
秘書課を出ようとする社長に声をかけられた。
「あれ、まだ帰らないのか?」
は?
社長が帰らないから、私は帰れないんだけど。流石に腹が立って聞こえてないフリをした。
“今のはどうかと思うよ”とクスクス笑う諒陽を押しのけて、ゆかりは帰る準備をする。
秘書課を出てエレベーターに乗り込むと諒陽も乗ってきた。
「送って行こうか?」
そんな事をサラッと言える諒陽に驚きながら、その一言で昨日の一件を思い出した。
急に恥ずかしくなって“結構です”と強く言い放ったゆかりに、今度は“顔、赤いよ?”と言ってきた。距離を詰める諒陽にどうしようもなくなった時、
“1階です。ドアが開きます”
エレベーターが開いた。
「失礼します」と言いながら足早に会社をでる。
今日は祝日出勤で気分的にも曇り空なのに、目の先に見える空も星一つ描いていない。