シャッターの向こう側。

イベント……もしくは会話

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 夜間のライトには虫が集まる。

 野外に設置されるスポットライトって、近くに寄ったらかなり高熱なんだけど虫が寄る寄る。

 それをポケ~っと眺めていたら、スパンと頭を叩かれた。


「お前は邪魔しに来たのか? 下見に来たのか?」

 振り返ると、不機嫌そうな宇津木さん。

 そして、台車に機材を置いて愛想笑いのスタッフさん。


「あ。すみません。通路占領しました」

 そそくさと避けると、宇津木さんに襟を掴まれてステージから下ろされる。


 いや……だから、私はネコじゃない。


「お前はこっちから眺めてろ」

 ステージ前の芝生に離された。

「あまりウロチョロするなよ?」

 そう言って溜め息をつきつつ、向こう側にいるスタッフさんの集まりに混ざりに行った。

 それをボンヤリ眺め、頭をかく。


 ……まぁ、いいんだけどね。


 下見用に持ってきたデシカメを弄りながら、近くにあった鉄柵に腰をかけた。

 Kミュージック主催のロックフェスティバル。

 うちの会社は、去年の暮れ辺りからイベンターとして参加してるらしい。

 イベンタト自体は他の部署が受け持っているけど、うちは当日のPRとパンフ、それから来年に向けて私は写真撮り。

 その一部に参加。

 T市のヤツよりは確かに責任は分散するけれど、アマチュアバンドの他にも有名ミュージシャンがたくさん。

 大きな仕事には間違いないよね~。

 間違いないんだけど。


 ……なんか、気分が乗らない。


「うー……」

「何を唸ってるんだ、お前は」

「うひゃぁああ!!」

 思わずデジカメを落としそうになって手の上でお手玉する。

 必死になって胸に抱き込み、キッと後ろを振り向いた。

「何でいっつも気配を消して近づいて来るんですか!!」

 宇津木さんの呆れ顔が、不機嫌にすり替わる。

「別に黙って近づいてない。きちんと呼んでから近づいて来てる」

 おやぁ?

「前にも言っただろうが。お前は呼んでも中々気付かない」

「それは……すみません」
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