シャッターの向こう側。

混沌……もしくは混乱

******





 終業間近のオフィス。

 数台のパソコンの音と、微かに電話をやり取りする声。

 たいだいこの時間になると皆仕事を片付け始めるから、小さなざわめきを残して静まり返る。

 悪目立ちして残業を頼まれたくない、という心理もあるかも知れないけど。

 そんな中で、プリントした写真を眺めるのが一番集中出来る。

 残業して初めて知った出来事。

 隣では数分前からパソコンモニターを睨み付けてる男がいるけど、障らぬ宇津木さんに祟りなしだから。

 視界に入れなければOK。

 後は気分が乗っちゃって、鼻歌が出なければ叩かれる事もないし。

 手元の写真を眺めつつ、手に持っていたお茶のペットボトルを開けた。

「……ピヨ」

 画面から視線も外さない宇津木さんを、横目でちらっと見る。

「なんですか?」

「俺も喉が渇いた」


 ……そんなん知らんわ!


「同じのでいいから、手が空いてたら買ってきてくれないか?」

 おや。

 珍しく下手に出ている。

「同じのでいいんですか?」

「甘くないならなんでもいい」

 ペンタブをクリクリ動かして、宇津木さんは手を止めると、イキナリ椅子の背もたれに寄り掛かった。

「あ~。なんかうまくいかん」

 ブツブツ言いながら、両手で顔を隠している。


 これまた珍しく、弱音を吐いているな。

「……あまり根を詰めても上手く行きませんよ~?」

「お前には余り言われたくない台詞だな」

 おいおい。

「それは何故ですか」

「お前は一点集中型だろ」

 そう言って起き上がると、両手を後ろ手に組んで私を見た。


 一点集中型……ねぇ。

「集中するとまわりを見ない。他から何か言われても我が道を突っ走る。故に、呼び止める時は掴むしかない」

「…………」


 あの……


「それは私の首を絞める言い訳ですか?」

「事実ってヤツだ」

 宇津木さんは深く頷きながら、ちらっと私の手元を見た。

「何の写真?」

「あ。えーと……」

 聞かれると非常に困る。
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