シャッターの向こう側。
「これがファインダーだとするとだな」

「はぁ」

「これを空に向けるな」

 ん?

「地面にも向けるな」

「は、はい?」

「そうすれば、なんとなく春だ」

 言ってること無茶苦茶でしょ。

 思わずツッコミを入れかけて、やめる。

 すると、宇津木さんは苦笑しながら首を傾げた。

「……荒城さんとの仕事は、今回は秋が主体か?」


 荒城 雄一郎氏との仕事は次回で2回目になる。

 前回は雑誌社の要望で『夏』を主体に撮って、ギリギリセーフで荒城さんと一緒のページに私の写真が載った。

 そして今回は『秋』を撮ることになっているんだけど……


「気持ちは解らないでもないが、これも仕事だ」

「解ってますよぅ」

 言いながらファインダーを覗く。

 確かに、地面と空さえ写さなければ、まだ落ち葉の時期でもないこの季節……

 緑豊かなチャペルに白いドレスが綺麗。


「要は自己暗示ですね」

「そうだな」

 それにしても……

「手慣れてますね~。宇津木さん」

 ふっと視線を上げると、目が合った。

「何がだ?」

「普段、テレビコマーシャルに携わってるの見たことないですけど」

「……現場は有野さん任せだから」

 あ。

 来てないだけで、携わってる訳か。


「前回の総合施設はともかく、テレビコマーシャルもやってる。いちデザイナーとして」

「ディレクターじゃなく?」

「有野さんがやったり、俺がやったり。だがほとんどの現場は有野さん任せ。俺がいると嫌がる奴もいるから」

「ああ。口煩いから」

 スパン!と思いきり叩かれた。

「絵コンテの書類で叩くデザイナーがどこにいますかっ!!」

「コーヒーカップで殴られないだけマシだと思え!!」

「それ、一歩間違えたら殺人ですからっ」

「……君らうるさい」

 振り返った先に、満面笑顔の有野さんがいた。


 ……笑顔って、たまに怖いんだ。

 見ると遠くでは花嫁衣装とタキシードの二人が苦笑気味。

 もちろん、カメラさんやレフ板持った兄ちゃんたちも困った顔をしていた。

「君ら、今はすることないから、昼飯にでも行ってこい」

 笑顔で追い出された。
< 184 / 387 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop