シャッターの向こう側。

風邪……もしくは秋風

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「ハックション!」

「……汚い」

 くしゃみをしたら、隣の席から小さな呟きが聞こえてきた。

 2日前、大雨にあたったのがいけなかったのか、濡れたままの服で車のエアコンにあたっていたのが悪いのか……


 どうも風邪っぽい。


「ちゃんと手で押さえてまずがら゙」

「鼻をかんだらどうだ? 気持ち悪い声だぞ」

 気持ち悪いは言い過ぎだろうが。

「もうないんですもん……」

 鼻のかみ過ぎでティッシュの箱はカラ。

 コンビニ行かないと買えないけど、昼休みは終わったし、終業まで1時間もある。

「ずびばぜんね」

「すでに何を言っているかも解らん」

 ティッシュの箱を投げられて、上手くキャッチした。

 思う存分鼻をかんで、丸めたティッシュをごみ箱に捨てる。


「ありがとうございます」

 鼻の皮がむけそうだよベイベー。

 ボンヤリとパソコンのモニターを眺めていたら、宇津木さんがファイル片手にこっちを見たのが視界の隅に入った。


「薬は飲んだのか?」

「一応」

「早退すれば? 17時なら、まだ受け付けやってる病院がある」

 ちらっと見ると、宇津木さんは何かの名刺の様な紙を差し出していた。

「……病院。嫌い」

「お前はガキか」

 だって嫌い。

 あの独特の消毒液の臭いとか、明るいのに暗い雰囲気とか好きじゃない。

「あのな。そんなだと、治るものも治らないぞ」

「大丈夫です。すぐ治りますって。それにコレ……今日中にまとめちゃいたいですし、それさえ終われば」

 明日は週末だし。

 あの『春のウェディング』の写真。

 例の如くデジカメは却下されたから、使ったのはフィルム一眼レフだし、現像に一日費やして今日まとめて届いた。

 見ながらちょっとだけ咳込む。

 あ~……喉にもきた。

 でも、体調管理も社会人のお勤めですから。

 これくらいで早退したら、女が廃る。

 そんな感じで仕事を続け、終業時間10分前、なんとなく仕分けた写真を宇津木さんに差し出した。
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