シャッターの向こう側。

深緑……もしくは月光の中で

******





「おはようございますー」

 オフィスのドアを開けにこやかに挨拶すると、ニコニコ加納先輩。

 ……そして、不機嫌そうな宇津木さんに睨まれる。

「……私、何かしましたか?」

 聞くと、宇津木さんは頷いた。

「たまにそのニヤケ顔をどうにかしたくなる」

 こんにゃろうは……

「私も、たまにその不機嫌そうな顔をどうにかしたくなりますよ」

 だいたい、男がそんなツヤツヤ肌なんて許されないんだから!

「ああ? 何をどうするって言うんだよ」

「自主規制します」

「なんだソレ」

「なんでも良いですよ」

 ぷいと顔を背け、バックをデスクに置いて座ろうとしたら、


「……っ!」


 と、お尻を床に思い切りぶつけた。


「おー。初めてひっかかったな」

 とても楽しそうな宇津木さん……。

「……今時、椅子を引くなんて悪戯、子供でもしませんから」

「俺は子供じゃないし」

「そんな事は解ってます!」

「で、無事か?」

「やった本人が言う事じゃないっ!!」

 叫んだら、回りからクスクス笑いをもらった。

 てやんでぃ、ちくしょうめ。

「それで、何か頼み事ですか」

 キチンと椅子を押さえて座ると、宇津木さんは首を傾げた。

「よく解ったな」

「なんとなく」

 こーゆーイタズラを仕掛けてくる時は、用事があるってパターンなのよ。


 ……普通に呼べと言いたい。

「ピヨは運転出来るんだよな?」

「車ですか?」

「ああ」

「どこまでですかぁ?」

「ん? S市」

「S市に何かありましたか?」

「水と資源のミュージアム?」

「それは去年、荒木さんがPRキャンペーンに参加したイベントですか?」

「そう。ちなみにそれは関係ない」


 関係ない事はいい。

「宇津木さんて、真面目なのか不真面目なのか、たまに解りませんよね」

「今のは軽い冗談だ」

 全然、まったく、解りません。

「とにかく、今から出かけるぞ」

「へ? 今からですか?」

「今からだ」
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