シャッターの向こう側。

現像……もしくは現実

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 南地区の写真を撮り終え、その足ですぐに町はずれの写真館に向かった。

 カメラを変えろと言われたし、カラーフィルムに替えるには、一度撮り切ってない白黒フィルムを出さなくちゃいけない。

 それをするには現像するのが一番だ。

 写真館の店長さんは、いい感じに年をとった感じのシルバーグレイ。

 茶灰のスラックスにオフホワイトのシャツ、それに赤茶のベストを身につけて、少し長めの白髪と形のいい口髭がとてもよく似合う。

「白黒現像なんて、久しく見てなかったですねぇ」

 酢酸溶液の入ったフィルムを入れた小型タンクを根気良く回す私に、にこにことお茶を勧めてくれる。

「白黒の現像なんて、したい人はいないですからねぇ」

 酸っぱい臭いに嫌な顔をしないあたり、いい人かもしれない。

「最近じゃ、デジタルカメラだなんだと、簡単な機械が増えてますからねぇ」

 目の前の出来上がったカラー写真を見て、にっこりと微笑むおじさんの名前は高橋さんといった。

「高橋さんは、デジタルカメラはお嫌いなんですか?」

 言い回しがとっても微妙だった気がする。

 私がそう言うと、高橋さんは首を傾げ、優しげに頷いた。

「そうですね。私はいわゆるデジカメは好きではありません。写真とは一瞬の出来事だと思っておりますから」

「……まぁ、そうですね」

「それを一瞬で捉えるのが、わしらの仕事ですが、デジカメだと、すぐに消去してしまえるでしょう?」

 手は動かしたまま少し考えて頷いた。

 ……確かに失敗した画像を、デジカメはすぐに消去出来る。

「失敗も無しにしてしまえる。ただ、タイミングと言うものは一瞬。消してしまった次の瞬間には、もう同じものは撮れません」

 似たような瞬間はあるかもしれないけど、確かにプログラムでもない限り同じ瞬間はないだろう。

「失敗は失敗でも、それも一瞬の出来事の一部です。それを消してしまうのは、なんとも好きじゃない」

「はぁ……」

「まぁ、お若い方にそう言っても、なかなか納得はしてもらえませんが、失敗も、成功の一部なんだと思ってるわけでして」

「……失敗も成功の一部ですか?」

「デジタルカメラと言うものは、失敗した、消して撮り直してしまえばいい。そう言っているように見えるんですわ」

「はぁ」

「それじゃ、何故そこで失敗したのか……なんて学べませんでしょう?」
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