シャッターの向こう側。
レインボーカラー

雪景色……もしくは疑似体験

******





「神崎さん。魚眼取ってもらっていい?」

 今野さんの言葉に、バックの中から魚眼レンズを出して渡す。

「魚眼で何を撮るんですか?」

 返されたレンズを受け取って、ライトアップされた白い台を見る。

 霧吹きで水をこれでもかってくらいに吹き掛け、水滴いっぱいの青々しい緑の鉢植え。

 レンズを変えている今野さんを眺めると小さな微笑みが返って来た。

「自然派化粧水の写真。加納ネーサンがまた無茶苦茶急ぎで持ってきた」

 ああ……

 加納先輩は健在だわ。


 苦笑すると、カメラを覗いていた今野さんが眉を上げた。

「そういえば、最近は有野さんと組んでるんだって?」

「え~?」

「惚けてもムダムダ。俺も契約なんだからすぐにばれるって」

 呟きながらシャッターを切る。


 契約社員になって二ヶ月。

 町はクリスマスシーズン真っ盛りって感じでキラキラ。

 先取りクリスマスやら忘年会だか解らないけど、酔っ払いが増える月。


 広告の裏方は、すでに年始気分なんだけどね~。


「たまたまですって。第一の仕事もありますよ」

「加納ネーサンのでしょう? 宇津木さんが捕まらないって文句言ってたよ?」


 ……うーん。


 バックの中のレンズを整理しながら、首を傾げる。

「荒城さんと話してる時に着信があるんですもん」

「折り返せるじゃない?」

 あまり折り返したくないな。

「私、宇津木さんに甘えるのはよそうと思いまして」

「何かあった~?」


 ありませんよ。


 てか……


「よく撮影中におしゃべりできますよね」


 今野さんのとこでアルバイトを初めて二ヶ月。

 加納先輩をいないとこでは〝加納ネーサン〟と呼ぶのは慣れたけど、シャッターを切りつつしゃべり倒すのは慣れない。


 世の中いろんな人がいるもんだ。


「……そういえば、今年は社員旅行ないんだって」


 急に話が変わりましたね?


「不況ですか?」

「そうかもね。宣伝媒体なんて色々とあるから」

「ですよね~」

「……で、今年は仮装パーティーらしいけど。出る?」

「は……」


 はいぃ?
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