シャッターの向こう側。

風の日……もしくはリミット

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「雨が止んだと思ったらぁ~、今度は強風困ったな♪」

 カメラをしっかりと固定しながら、ホテルの屋上を開放してもらって、なかなかの高さから眼下を望む。


 正直、くらくらしちゃうくらいに高い。


「……全然困ってないでしょう。神崎ちゃん」

 鼻歌まじりの私に坂口さんが苦笑した。

「困りますよ~。安定悪いもの」

 気を抜いたら本当に吹っ飛ばされそうだし、とりあえず髪は一つにまとめてるだけなので、あっちこっちに飛んで行く。

 櫛を通そうとしても、きっと通らないだろう。


 ……と、考えて、


 私、余裕じゃんと納得。


「案外困ってないかもしれませんね」

「どっちさ」

 どっちなんでしょう?

 まぁ、どっちにしろ写真には関係ない。

 風が強いくらいでいい天気ではあるし。

 大自然の雄大さを撮るには、風の日の方が実は好きな画が撮れる。

 静かな木々の様子っていうのもいいんだけど、ダイナミックさから言えばやっぱり風が出てた方がいいかな。

 これだけ敷地面積が大きいんだし、どうせなら勢いが欲しかったから打って付け。


 見下ろす南の森。


 背の高い木々の葉が揺れる様は見えないけど、全体が流されている様子は見える。

 数枚シャッターを切って、ファインダーから顔を上げた。


 ちょっとレンズを変えてみよう。


 望遠用のレンズから、魚眼レンズに換えて、再度カメラを構える。


 イメージは水泡かな。

 うまくいけばいいけれど……


 その前に、出来上がった写真がそういう風に使われるかもわからないけどね~。

 なんて、考えながら気が済むまで撮り終わると、荷物を抱えて坂口さんがいる辺りまで戻った。


「果敢だね~」

「何がですか?」

 首を傾げると、坂口さんは眉を上げ、同時に肩を竦めてみせた。

「髪を振り乱してまで、仕事してる女性は初めて見たよ」


 ……乱れ過ぎでしたか?


「私が、いや~ん。風が強いぃ~。髪が乱れちゃう~……なんてやってたら、仕事にならないじゃないですか」

 ぶりっ子ポーズで可愛らしく言うと、坂口さんも頷いた。

「そうだよね~。考えてみれば、そんな女性とはあまり組みたくないけど……」

「私も同感です」

 深く頷いて、屋上を後にする。
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