くるまのなかで

高校卒業後、有名ホテルのレストランに勤めていたというタケ先輩の料理は、本当に美味しかった。

何も知らずに食べた肉料理が、実は苦手なレバーだったことを知り、私はひとつ好き嫌いを克服することができた。

と言っても、タケ先輩の料理に限るが。

店を出たのは、午前0時前。

本来なら午後10時半ラストオーダーで11時には閉店するらしいのだが、私たちのために、少しだけ長く営業してくれた。

「本当に美味しかったー。また来ます。ごちそうさまでした」

私がそう言うと、タケ先輩は嬉しそうににっこり笑ってくれた。

学園で最も厳ついと称されていたタケ先輩。

もう見る影もない。

「おう。是非是非。また奏太と来てよ」

「はい」

懐かしいタケ先輩と会えたし、楽しそうに笑う奏太を見ることもできた。

楽しかったなぁ。

「じゃあ梨乃、行こうか」

「うん」

私たちは料理の感想などを語りながら駐車場へ向かい、車に乗った。

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