くるまのなかで
エンジンのかかっていない車の中は、とても静かだ。
乗り込んだ瞬間、急に二人の空間になって、ほどけていた緊張の糸が再びピンと張り詰める。
ねえ、これからどうするの?
「梨乃」
「うん?」
「もう一ヶ所付き合ってほしいんだけど。いい?」
「もちろん。どこ行くの?」
奏太になら、どこまででも付き合うよ。
「ちょっと、そこまで」
シルビアはゆっくり走り出した。
駅前の少し栄えている場所から、どんどん人気のない地域へと進んでいく。
怪しい山道に差し掛かると街灯も少なくなり、道の先にはラブホテルのけばけばしいネオンが輝いている。
普通なら、女は警戒するシチュエーション。
ねえ、奏太。
私たちは再会してからそうたくさん顔を合わせてきたわけではない。
10年離れていた分の隙間を埋められたとも思わない。
けれど、それでもあなたにだったら何をされてもいいし、どこへ連れて行かれても構わない。
そう思ってしまう私は、やっぱり浅ましいかな。