くるまのなかで
坂のアップダウンに合わせて華麗にギアをチェンジする奏太は、道沿いに何棟もあったラブホテルを全てスルーして坂を上り続けた。
もしかして……とそわそわしていた私は、そんな感情をおくびにも出さずにBGMへ耳を傾け続ける。
何を期待していたんだろう。
奏太は簡単にそういうことをする男ではないと、私は知っていたはずなのに。
峠に差し掛かり上ってきた道とは反対の麓へ下る道と、もう少し上にある公園へと向かう道との分岐点が見えた。
私はここでようやく、奏太がどこへ向かっているのかを理解した。
途端に私の胸が助けを求めて悲鳴を上げる。
奏太は迷いなく、公園へ向かう道へ進入。
私は無意識にギュッと両手を握りしめた。
上り坂が終わると、開けた駐車場になる。
外灯は一基しかないため不気味なほどに暗いし、車は一台も停まっていない。
駐車場を横切り、先にある車一台がようやく通れるくらいの狭くて急な坂道へ。
奏太はギアをセカンドに入れて、ゆっくりその道を上った。
「奏太……。ここって」
声が震えた。
「うん。そうだよ」
今でもまだ、あの日の感情は忘れていない。
坂を上りきると、左側に車が3台だけ停められる駐車場があり、右側には公園らしい遊具がいくつか。
ここにも、車は一台もいなかった。
シルビアは真ん中のスペースへ前向きに停まり、ヘッドライトが消灯される。
目の前に広がる、懐かしくて美しい景色。
見下ろすことのできる天の川。
その正体は、そこらじゅうの宝石を散りばめたように輝く私たちの町だ。
ここは10年前に、私たちが別れた場所である。