くるまのなかで
私の肺の空気を全て入れ替えるようなイメージで、数回深く深呼吸した。
どんなに空気を入れ替えても胸の中にずしりと居座っている重い不快感は拭えない。
これから彼と対峙するのだと思うと、緊張と気まずさで嫌な汗が噴き出る。
どんな顔で奏太に会えばいいのだろう。
怒ってみせればいい?
それとも悲しんでみせればいい?
はたまた、余裕ぶって何ともないような顔をすればいい?
好きな人に会うのに、こんなに嫌な気持ちだったことはない。
高校時代にケンカをしたときだって、ここまでではなかった。
それにしても、隠し事がバレたというのに、奏太はどうして私に会いにきたんだろう。
やましい気持ちが先に立って、会いたくないと思うのが普通なのではないだろうか。
言い訳しにきた?
謝りにきた?
だとしても、絶対に情にほだされたり丸め込まれたりするもんか。
絶対に。
私は心に固く誓って、退勤の準備を整え、深夜稼働している人たちと挨拶を交わし、センターを出た。