くるまのなかで
会社の建物を出ると、奏太のシルビアは私の車の隣に停まっていた。
私が来たことに気づいた奏太が、車を降りる。
会うのはたった5分のために来てくれた夜以来だ。
彼の顔を見た途端、胸がキュンと反応した。
再会した時の感動や手を握られたときのときめき、抱き合ったときの愛しさが一気に蘇って体中を巡る。
全身が彼を好きだと叫んでいる。
我が体ながら、素直すぎて腹立たしい。
「梨乃。お疲れ様」
「どうも」
「入場許可、くれないと思ってたよ」
「後悔はしてる。本当ならプライベートな理由で部外者を入れたらいけないし」
「そうか。そうだよな。ごめん」
「許可したのは私だし、謝らなくてもいいけど」
湿気を多く含んだ梅雨明け前の風が、私たちの間を吹き抜ける。
今夜の天気は曇り。
晴れていればたくさんの星と立派な月が見えるこの駐車場で、外灯を反射する車の艶と奏太の瞳だけが輝いている。
私たちの現在の距離は5メートル。
手を伸ばしても届かないし追われても建物へ逃げられる、絶妙な距離だ。
「梨乃の混乱を、治めにきた」
「どういう意味?」
「隠していたこと、全部話すよ。質問があれば、俺が答えられる範囲で答える」