くるまのなかで
奏太の言葉には違和感がある。
奏太が隠しているのは由美先輩と結婚して子供もいること。
それなのに“全部話す”とはどういうことだろう。
既婚者であること以外にも、何か隠しているということか。
質問も“俺が答えられる範囲で”なんて、いい加減だ。
自分のことなんだから、全部答えなさいよ。
そんな気持ちを込めて奏太を軽く睨む。
「奏太の言ってること、よくわかんない。私の混乱を治めてくれるって言うなら、私の質問に答えるだけでいい。何か言いたいことがあるなら、その後にして」
少し強い口調で告げると、彼は若干怯んだように眉を寄せた。
「わかった」
頷いた奏太の目は、まっすぐに私を見つめている。
背後から扉の開く音がして、屋内から今退勤したとみられる従業員が出てきた。
こんなところで大声で話すことではない。
私は自分の車を開錠し、奏太に「乗って」と告げ、運転席へ乗り込んだ。
続いて彼も助手席に乗り込む。
エンジンのかかっていない車の中は、窓を閉め切っていることもあって、虫の声すら聞こえない、とても静かな空間になった。
速まる心臓の音が響いてしまう気がして、私は先に言葉を発した。
「奏太、私のことどう思ってる?」