くるまのなかで
奏太は私の最初の質問がよっぽど想定から外れていたのか、数秒間、ぽかんと目を見開いた。
「聞いてるの?」
「……好きだよ」
好きな人からのこういう言葉は、たとえ嘘でも嬉しい。
でも、気をしっかり持たなくちゃ。
私は疑いの眼差しを向け続ける。
夏の夜。エアコンも効いていない車の中。
日が射していないと言っても、それなりに暑い。
暑さのせいか緊張のせいか、ギュッと握りしめた手に、ぐっしょり汗をかいている。
涼を得るため、エンジンをかけた。
まもなくエアコンの吹き出し口から風が出る。
「私と今後、どうなりたいの?」
「とりあえず、10年離れてた分、一緒にいたい。二人の思い出をたくさん作りたい。それで、もしうまくいったら、ゆくゆくは……」
奏太は最後までは言わず、照れた顔をした。
ゆくゆくはって、意味わかって言ってるの?
いずれはとか、将来的にはとか、そういう意味なんだよ。
その言い方だと、もし私との関係がうまくいったら、いつか結婚したいって言ってるみたいじゃない。
私に幸せな未来を想像させて、都合のいい関係を何年続けるつもりなの?
「結婚してるくせに」
私よりずっとキレイな奥さんと、結構大きい息子までいるじゃない。
アウトレットでの光景とショックを思い出して、目がツンと熱くなる。