くるまのなかで

奏太はすぐには反応しなかった。

声を出したのは、数秒経って、私が歯を食いしばる音が微かに聞こえてからだった。

「それは、質問?」

悪びれもしない、穏やかで優しい声。

表情も、まるでなんてことないように穏やかに微笑んでいる。

私を騙していたことがバレて、それを本人から指摘されているというのに、どうしてそんな顔ができるの?

奏太も所詮、元ヤンキー。

他人が迷惑を被ったり傷ついたりすることを何とも思わない人種だったということ?

「質問じゃない。嫌味よ」

悔しくて声が震えた。

なのに、私はどうしてこんな男にどうしようもなく惹かれてしまうのだろう。

今だって、こんな仕打ちを受けているのに、好きだという気持ちが変わらない。

嫌いになれたら楽なのに。

好きなだけ罵倒して、喚き散らして、さよならすればいいだけなのに。

この人に愛されたくて、悲しい。

奏太は悪魔だ。

優しく微笑む悪魔だ。

「なんだ、嫌味なのか」

「そうよ」

「もし質問だったら、答える準備があるのにな」

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