くるまのなかで
「まあ、そのおかげで最近梨乃が俺に会いたがらない理由がわかって、ホッとした」
「どこにホッとする要素があったのよ」
「ああ、いや、なんていうか。隠し事があるのは事実だけど、うまく隠してるつもりだったから、梨乃の気持ちが離れたと思って焦ってモヤモヤしてたんだ。でも、梨乃が俺のことが嫌になって避けてるんじゃないってわかって、安心した」
「なにそれ。私は悲しくて、悔しくて……っ!」
私を騙した挙げ句、あんなに絶望の縁をさまよって苦しんだ私を見て安心しただなんて、ひどい。
腹立たしさが込み上げて声が震え、とうとう涙を流してしまった。
それを見た奏太が慌てて私をなだめようとする。
「ごめん! ごめん。そういうつもりじゃなかった。言い方が悪かったよ。ほんとにごめん」
伸びてきた腕を、私は思いきり払った。
「触らないで」
「梨乃……」
睨みながら涙をポロポロ流す私の醜い顔を、奏太はどんな気持ちで眺めているのだろう。
もっとスマートに責め立てるつもりだったのに、無様なのはいつも私だ。
「梨乃。これ、見て」
奏太がおもむろに、ジーンズのポケットから何かを取り出した。
四つ折りにされた紙だ。
差し出しても素直に受け取らない私を見かねて、奏太自らそれを開く。
そして、車の中でも何が書いてあるか見やすいよう、ルームランプを点灯して、紙の表をこちらに向けてきた。