くるまのなかで
数秒後、携帯電話が震えだした。
ディスプレイには『着信:徳井奏太』の文字。
それを見た瞬間、私の胸が一気にギュッと締め付けられ、目頭がツンと痛くなる。
心と体がこんなに反応してしまうくらい、私はまだ奏太が好きだったらしい。
「もしもし」
『梨乃? 俺だけど』
もう、もう、もう……何なの、最近の高音質は。
奏太の声を聞いた瞬間、堪えていた涙が一気に溢れ出す。
「奏太……」
『どうしたの? 何かあった?』
「あのね」
言葉を続けられなかった。
無理に喋れば鼻声になって泣いていることがバレてしまう。
鼻をすすったりしたら、その音でバレてしまう。
『梨乃? 今どこにいるの?』
不思議に思った奏太が先に声をかけてくれる。
彼は別れて間もない彼女に対しても優しいらしい。
私は安心しつつ、喉にありったけの神経を集中させる。
「お母さんの、お墓の近くにいるの」
『うん』
「それで、車が……」
『車?』
「車が、動かなくて」
『どう動かないの? 詳しく話せる?』
「キーレスで鍵が開かなくて。おかしいなって思ってたら、エンジンもかからなくて」
『なるほど。ルームランプは点く?』
「ちょっと待って。ううん、点かない」
『ヘッドライトもダメ?』
「ヘッドライト……あっ」
『どうした?』
「フォグランプ、つけっぱなしだった……」