くるまのなかで
電話越しに、奏太が笑う声が聞こえた。
『バッテリーが上がったんだな』
「そうみたい」
私ってば、こんな時に限って何という凡ミスをやらかしてくれたんだ。
バケツなどの荷物を車に積んだときは、キーレスで開錠できた。
つまりあの時はまだバッテリーに残量があったということ。
気づかずのんきに喫茶店なんかで時間潰しちゃって、バカだなぁ。
最近はライトをつけっぱなしにしてキーを抜くとアラームで知らせてくれる親切な車がメジャーなようだが、生憎私の愛車はそんなに気が利いていない。
『場所、教えて。今から行くよ』
「え、いいの?」
『どうせ暇だし』
「どうせって……」
『1ヶ月前に彼女に振られて、寂しい連休を送ってたからね』
「もう、私のせいみたいに言わないでよ」
『だって、間違いなく梨乃のせいだろ』
話しているだけでドキドキしているのに、意地悪を言うのはやめてほしい。
せっかく落ち着きを取り戻していた涙腺が、またせわしなく働きだす。
「私が寂しい連休を送ってるのだって、奏太のせいじゃん」
『なんだ、お互いさまか』
「そうだよ。私だけ悪者にしないで」