くるまのなかで
奏太が寂しい休日を送ってくれていてよかった。
自分で振っておいて理不尽だけど、もし「新しい彼女と旅行中」なんて言われていたら、きっと立ち直れなかったと思う。
別れたから関係ないとか、自分から振ってやってスッキリしたなんて、無理矢理思っていただけで、本心じゃない。
本心にしたかったけど、この1ヶ月ではそうならなかった。
通勤のときは宇津木自動車にシルビアが停まっているか必ず確認するし、シルビアがあるときは工場や事務所に奏太らしき人影を探す。
つなぎ姿の奏太を見られた日なんかは、それだけでその日がいい日だと思えた。
この季節は暑くて汗をかくからか、工場にいる時は頭にタオルを巻いていることが多いみたい。
つなぎは紺色だったりオレンジだったり、再会した日と同じ緑だったり。
どれも全部、奏太に似合っていた。
運転中でチラッとしか見られなかったけど、どんな奏太も、すごくカッコよかった。
自分から突き放したって、好きな気持ちは全然なくならない。
むしろ会えない寂しさで募っていくばかりだ。
だけど自分から振った手前、会いたいなんて言えない。
でも今日、やっと会える。
奏太に会える。
バッテリーが上がって困ったけれど、自分のしょうもないミスさえも会う口実になってラッキーだと思ってしまう。