くるまのなかで
奏太を待っている間、さっきまでいた喫茶店に再び入り、温かい紅茶を飲んだ。
隅の席で紅茶を飲みながら汗で崩れまくったメイクを直し、トイレではデオドラントシートでしっかり全身の汗を拭いた。
奏太が絡むと、私は急に“女子”になる。
彼が来てくれたのは、電話を切ってから約40分後だった。
「お待たせしました。宇津木自動車でーす」
運転席の窓を開けおどけてそう言った奏太は、つなぎではなく、私服姿だった。
「ごめんね。休みの日なのに」
私が謝ると彼はふと笑って、シルビアを愛車の前に停めた。
「いやいや、俺は嬉しいよ。梨乃がちゃんと俺を頼ってくれて」
「だって、他に頼れる人とかいないもん……」
奏太が車を降り、後部座席からなにか太いケーブルのようなものを取り出す。
ブースターというらしい。
このまま作業をするつもりのようだが、キレイめデザインのポロシャツが汚れてしまいそう。
そんな心配をよそに、彼は私の愛車とシルビアのボンネットを開けて、慣れた動作でケーブル同士を繋いでいる。
「よかった。おかげで梨乃に会う口実ができた」
「口実って……」
私も同じこと、考えてたけど。
「つっても、バッテリーなんて一瞬で復活するけどさ」
私の愛車の内装を少しいじって、シルビアのエンジンを始動。
続いて私の車を操作すると、まるでさっきまでの不安が嘘のようにエンジンがかかった。
本当に、一瞬だ。
もっと複雑な作業をすると思っていたのに。