くるまのなかで
「このまま充電する必要があるから、少なくとも1時間はエンジン切っちゃダメ。オートマだしエンストすることはないと思うけど、念のため一緒に下道で帰ろう。暑いけど電気使っちゃうからエアコンは使わないで。音楽も、今は切っとこうか」
「わかった」
慎重にブースターを外し、シルビアへ放る。
「この時間は混んでるし、下道だったら梨乃の家まで1時間半くらいだな。帰ったらいったんエンジンを切って、自力でかかるか確かめてみよう」
「うん」
各々の車に乗り、私が先導する形で出発。
それからすぐに日が落ちたけれど、エアコンの効いていない車内は暑い。
窓全開でステレオもオフ。
風の音しかしないけれど、サイドミラーやバックミラー越しに奏太が見えるから、ドキドキして全然暇は感じなかった。
私の自宅アパートの駐車場に到着。
いったん切ったエンジンも、ちゃんと自力で始動した。
「ああ……よかった。本当にありがとう」
「いえいえ。また何かあったら俺を呼んで」
「うん。そうする」
「じゃ、またね」
「あ、待って奏太」
踵を返そうとした奏太を引き止める。
「ん?」と首を傾げる彼。
このまま奏太が帰ってしまったら、次はいつ会えるかわからない。
「あの、上がってく?」