くるまのなかで
私の提案に、奏太は目を丸くした。
「え?」
「だから、えっと、助けてもらったからお礼っていうか。昨日作り置きしたおかずでよければ、ご飯くらいならわりとすぐに出せる……けど……」
近くに車を停められる場所もないのに、迷惑だっただろうか。
「マジで? 梨乃の手料理、食えるの?」
丸くなった目が途端に輝きだした。
奏太には珍しく早口で興奮気味だ。
「え、まあ、うん。作り置きだけど」
「行く! 上がる! 最寄りのコインパーキングは調査済み」
思いの外喜んでくれている。
彼がまだ私を好いてくれている証拠のような気がして、たまらない。
「そこのパーキングから、歩いて5分以上かかっちゃうけど……」
「承知してる。何の問題もない」
「じゃあ、奏太が車停めにいってる間に、私、お米のスイッチ入れて軽くシャワー済ませとくね。今日一日、汗かきっぱなしだったから」
「了解」
奏太は満面の笑みでシルビアに乗り込んだ。
私は急いで部屋に入り、エアコンをつけ、無洗米を炊飯器にセットして浴室に飛び込む。
手早く一日の汗を流し、メイクも落として、出掛けるときよりも少しラフな服に着替えた。
髪を乾かしながらもう一度メイクを施すか迷っているうちに、チャイムが鳴った。