くるまのなかで
「はいっ!」
来た……!
短い廊下をバタバタ走って玄関へ。
緊張しながら扉を開けると、私以上に緊張の面持ちの奏太が立っている。
彼の顔を見て、しまったと思った。
何気なく招待したけれど、私たちは互いを好き合ったまま別れた元カップル。
なのに、独り暮らしの部屋に入れるなんて。
さらに私はシャワーを浴びたばかり。
狙ってる、あるいは誘ってると思われても仕方ないのでは?
奏太の表情を見ると、彼だってそういうことを意識しているのがバレバレだ。
私は途端に恥ずかしくなった。
だけど、今更気づいたってもう遅い。
「おじゃまします」
「どうぞ」
奏太が靴を脱ぎ、1Kの部屋へ足を踏み入れる。
短い廊下の右手はキッチンスペースになっていて、奥の扉を隔てて寝室兼リビングがある。
これから食事をするからと、廊下左手の扉を入ったところにある洗面所で車を触った手を洗ってもらった。
そしていよいよ、夏に合わせて涼しげなブルーを基調にコーディネートした、あまり女らしくない自室へ彼を通す。
前回ここへ来たときは、玄関でキスをしただけで部屋には入らなかった。
奏太はカタい表情で、案内されるまま二人がけのソファーに腰を下ろした。