くるまのなかで

この日の午後5時過ぎ。

休憩に入った私は、ロッカーから財布と携帯を取り出し、休憩所へと向かった。

自動販売機で炭酸飲料を購入し、扉の横の壁に付いているセンサーに社員証をかざす。

ピピーッと音が鳴り開錠され、入室した。

すると、扉のそばに、見慣れた後ろ姿があった。

こんなところで立ち尽くして、どうしたのだろう。

「清香先輩?」

私が声を掛けると、清香先輩は切羽詰まったような顔をこちらに向けた。

「コバリノ……」

「どうしたんですか、こんなとこで」

思ったまま声を掛けると、彼女は言葉で答える代わりに、視線を前方へ向けた。

目に飛び込んできた光景に、私はあやうく炭酸飲料のボトルを落としてしまうところだった。

開封してスプラッシュ!という自体は免れたが、あまりに予想外で数秒間膝が震えた。

私はペットボトルをしっかり手で握り、いったんごくりと息を飲む。

覚悟を決め、そこにいる彼女に声をかけた。

「由美先輩……」

7月にアウトレットモールで見かけて以来、約2ヶ月ぶり。

いや、実際にこうして顔を合わせたのは、10年半ぶりである。

どうして彼女がここに?

業務委託や人材派遣をメインに、短期バイトなども扱っている我が社。

心当たりが多すぎて、私は余計に混乱した。

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